
昭和初期における日本住宅建築の傑作 国登録有形文化財
お知らせ
甚吉邸についてabout
岐阜県の実業家・14代目渡辺甚吉の私邸(東京都港区白金台)は、1934年(昭和9)年に建設されました。上質なチューダー様式のほか、各部屋にはロココ様式、山小屋風や和風など部屋ごとに多様な様式を取り入れ、さらに当時最新の設備や動線計画を兼ね備えた住宅で、昭和初期における日本住宅建築の傑作といわれています。

移築の経緯
2016年、時代の流れから取り壊しの危機を迎えます。有識者が集結して保存のための要望書がまとめられ、多くの技術によって2022年前田建設の研究施設であるICI総合センターの敷地内に移築されました。移築の際には動態保存を前提とし、現行法規制に準拠しつつ、今後100年存続する仕様を設定しながらも、オリジナルの意匠を忠実に復元することに注力しました。移築後の2023年、国登録有形文化財に登録されました。

新築時に関わった人々
事業主の甚吉は、当時岐阜で建設会社を経営していた遠藤健三に設計と施工を依頼しました。建設費に糸目はつけないと遠藤に伝え、さらに自身の山の良材を提供したといわれています。遠藤は、早稲田大学・「あめりか屋」でも先輩だった、山本拙郎に協力を仰ぎました。また、二人の大学での恩師である今和次郎に細部装飾を依頼しました。

画像提供:ご親族
わたなべ じんきち
渡辺 甚吉
1906年(明治39年)岐阜県生まれ。渡辺家は中部地方を代表する名家で、甚吉氏も一六銀行取締役、岐阜放送社長、東海テレビ放送取締役など多くの会社の重役に就任した。1947年には参議院議員選挙に出馬。当選して参議院議員を一期務めた。岐阜薬科大学の創設資金を全額寄付するなど、地元にも貢献している。

画像提供:ご親族
えんどう けんぞう
遠藤 健三
1898年(明治31年)岐阜県生まれ。建設請負業を営む家の長男。高校卒業後に上京し、早稲田大学付属早稲田工手学校の建築科に入学し卒業。大学の先輩である山本拙郎に誘われ住宅会社のあめりか屋に入社後、九州での請負業を経て故郷の岐阜に戻り、エンド建築工務所を設立。大日本土木の初代社長も務めている。

画像提供:ご親族
やまもと せつろう
山本 拙郎
1890年(明治23年)高知県生まれ。キリスト教を信仰する家庭で育つ。旧制第三高等学校を卒業後、早稲田大学理工科建築学科に進学。卒業後はあめりか屋に就職し、技師長を務めたほか住宅改良会の機関誌「住宅」の編集・執筆にも取り組んだ。1928年には同社の2代目社長に就任。1944年、仕事で渡った上海で死去する。

画像提供:筑摩書房
こん わじろう
今 和次郎
1888年(明治21年)青森県生まれ。東京美術学校(現・東京芸術大学美術学部)を卒業後、早稲田大学建築学科の助手となり、後に教授となる。建築学 のみならず民俗学などの研究者としても知られており、いわゆる考現学の提唱者でもある。なお建築やデザイン分野での実作は非常に少なく、幻のデザイナーとも呼ばれている。
建物architecture
みどころポイント泰山タイル


ちり紙入れ
泰山タイルは、大正から昭和にかけて建築界を風靡した京都の泰山製陶所で作られました。(泰山製陶所は昭和48年閉所)衛生面を重要視した甚吉邸はトイレや浴室だけでなく暖炉や玄関の床、外壁などに水洗いできるタイルを使用しています。裏足にある「泰」の字を三重に囲んだマークがその証です。 1枚ごとに表情の異なる色合いが魅力で、布目のタイルの美しい輝きだけでなく、役物も使って隅角部などもきれいに仕上げています。今回の移築の際には内部だけでも約11,400枚あったタイルを丁寧に取り外し、90%以上を再使用しています。
みどころポイント今和次郎による装飾品


実作が少なく『幻のデザイナー』と言われている今和次郎ですが、甚吉邸には数多くの作品が残されています。照明器具やスイッチプレート、ラジエーターグリルなどをデザインしたことが残されたスケッチで分かっています。細部装飾のどこまで今和次郎が関わったか定かではありませんが、応接室の取っ手のモンキーテイル等も今和次郎がデザインした可能性もあります。

移築construction
移築の記録

移築の概要や⼯事内容から、プロジェクトに関係する4名の研究者の座談会まで ⼯事中の幅広い内容をご紹介します。
- 概要
- 移築の意義
- ⼯事内容
- 今後の活⽤
- 座談会
移築工事の動画
タイル・石工事
秦山タイルと石の復元の様子
左官工事
食堂・応接・寝室の天井の復元の様子
木工事
破風板の復元や、構造体の耐震補強などの様子
移築工事中のパノラマツアー

白金台で1つ1つの部材に解体し、傷んでいるものは取手で修繕して組み立てました。解体・移築には多くの方の知恵と技術が生かされました。
職人の匠の技が随所に生かされた解体時の姿もボタンをクリックしてご覧いただけます。
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茨城県取手市寺原5270
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